まちきたOHANA

『OHANA』とは、ハワイ語で『家族』のこと。
まちきたの想いを綴っています。

わたしたちのOHANAを紹介します!

素敵な笑顔を、ぜひご覧ください。みんな大切な家族です。

看護師としての第1歩

とある機関誌に寄稿させていただいた文章をブログに掲載しました。

『絆』によせて

Iさんとの出逢いそして別離


「僕は夜には逝かないから、安心して眠っていいよ。」


いつも奥様を気遣っていたIさん。

突然の余命宣告を受けながら、心を乱すことなく最期まで自宅で過ごすことを選ばれました。傍らには常に、奥様と3匹の愛犬が居りました。

往診の先生を始め関わるスタッフ全てに、いつも丁寧に応じて下さり、時には目を細めて愛犬のお話をされる優しい方です。

癌の疼痛を麻薬で調整しても、日毎に増大する腹水と全身痛にどれだけ心身を消耗したでしょうか。そのような状況に在りながらも、淡々と現状を受け入れ、気丈に振舞われる強い方でもありました。

酸素を装着しながらも、奥様とのおしゃべりを楽しみ、時には可愛い愛犬の寝顔を愛おしそうに見つめ、ごはんを欲しがる鳴き声に優しく声をかける姿を拝見しながら

Iさんが一番大切にしている「家族への思いと諦めない強さ」を感じ取ることが出来ました。


ある日の午後、奥様が泣きながらお電話をくださいました。前日に鎮痛剤の増量について相談を受けていたため、状況が悪化したのかと思い、緊張が走りました。


その電話は、

──来てくれる人たちが皆良い人で嬉しいね。幸せだね。と、泣かなかった主人が初めて泣いたんです。ごめんなさい。こんなことで電話して──

というものでした。

命の灯が消えゆく状況に置かれながらも、他者に対する感謝の気持ちを伝えて下さるIさんでした。

返す言葉が見つからない私は、奥様に「一緒に泣いてあげましょう。ご主人の優しさを受け止めましょう」と答えるのが精いっぱいでした。


この後奥様は、Iさんからの「写真やビデオを沢山撮っておいて」という希望通り多くの写真を撮られています。

ファインダーからIさんを覗いた時、きっと涙で視界が定まらなかったことでしょう。それでも奥様は現実と向かい合いました。


告知から1月半も経たない短い時間の中に、Iさんは十分過ぎるメッセージを残して下さいました。

「穏やかな時間が過ごせたのは、あなたと僕、そしてこの子たちがいたから。ありがとう。」

そんな想いを奥様に残された数日後、彼は旅立ちました。約束通り 静かな昼下がりのことでした。


Iさんの療養支援チーム:地域往診クリニック相模原 N居宅介護支援事業所 Oヘルパー事業所 訪問看護ステーションまちきた